研究構想
現代は将来の予測が困難な時代であり、その特徴である変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の頭文字をとって「VUCA」の時代とも言われている。これまで少子化・人口減少や高齢化、グローバル化の進展と国際的な地位の低下、地球規模の課題、子供の貧困、格差の固定化と再生産、地域間格差、社会のつながりの希薄化などは、社会の課題として継続的に掲げられてきた。こうした中、新たな感染症の感染拡大の影響や相次ぐ自然災害、国際情勢の不安定化は、正に予測困難な時代を象徴する事態であった。このような危機に対応する強靱さ(レジリエンス)を備えた社会をいかに構築していくかという観点はこれからの重要な課題である。
これからの社会を見据えたとき、現時点で予測される社会の課題や変化に対応して人材を育成するという視点と、予測できない未来に向けて自らが社会を創り出していくという視点の双方が必要であり、「持続可能な社会を創る担い手」という目指すべき姿を実現することが求められている。つまり、今後目指すべき未来社会像は、持続可能性と強靱性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人一人が多様な幸せを実現できる、人間中心の社会としての「Society 5.0(超スマート社会)」である。これら社会の現状や変化を踏まえてこれからの社会を展望したとき、教育こそが、社会をけん引する駆動力の中核を担う営みであり、人間中心の社会を支えるシステムとなる時代が到来していると言える。将来の予測困難な時代において、一人一人が豊かで幸せな人生と社会の持続的な発展を実現するために、教育の果たす役割はますます大きくなっている。
令和3年度から全面実施となった学習指導要領では、「社会に開かれた教育課程」の理念の下、これまでの我が国の学校教育の実践や蓄積を生かし、子供たちが未来社会を切り拓くための資質・能力を一層確実に育成することを目指して、確かな学力の育成や道徳教育の充実、体験活動の重視、豊かな心や健やかな体の育成を改訂の基本的な考え方としている。そのことを踏まえて各学校において、生徒や学校、地域の実態を適切に把握し、教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと、教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくこと、教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保するとともにその改善を図っていくことなどを通して、教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていく「カリキュラム・マネジメント」に努めるものとしている。また、子供たちが学習内容を人生や社会の在り方と結びつけて深く理解し、これからの時代に求められる資質・能力を身につけ、生涯にわたって能動的に学び続けることができるようにするために、我が国の優れた教育実践に見られる普遍的な視点である「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を推進することが求められるとしている。
中央教育審議会の「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」では、社会の変化が加速度を増し、複雑で予測困難となってきている中、子供たちの資質・能力を確実に育成するためには、学習指導要領を着実に実施していくことが重要であるとしている。その上で、2020年代を通じて実現を目指す新しい時代を見据えた学校教育を「令和の日本型学校教育」とし、「個に応じた指導」を学習者の視点から整理した概念である「個別最適な学び」と、これまでも「日本型学校教育」において重視されてきた「協働的な学び」とを一体的に充実することを目指すとしている。その実現のためには、これまでの学校教育が担ってきた、学習機会と学力を保障するという役割、全人的な発達・成長を保障する役割、人と安全・安心につながることができる居場所としての福祉的な役割を継承しつつ、学校教育を社会に開かれたものとしていくこと、学校教育を支える全ての関係者が、それぞれの役割を果たし、互いにしっかりと連携することで必要な改革を進めていくことが期待されている。また、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善に資するよう、これまでの実践とICT とを最適に組み合わせることで、学校教育における様々な課題を解決し、教育の質の向上につなげられるようにすることも期待されている。同時に、教師の勤務時間管理の徹底や学校及び教師が担う業務の明確化・適正化、教職員定数の改善充実、専門スタッフや外部人材の配置拡充などの学校における働き方改革の強力な推進が必要である。
全日本中学校長会は、全日中新教育ビジョンの趣旨を踏まえ、学校における働き方改革を含めた新たな教育課題に対しても果敢に挑戦し、校長相互の資質向上と目的を明確にした研究を推進することにより、学校経営の更なる充実と学校からの教育改革を進めていかなければならない。そこで、令和8年度第66回東海北陸中学校長会研究協議会愛知大会において、「『豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会を創る担い手』を育てる中学校教育」を研究協議会主題として研究を深め、我が国の中学校教育の向上に資するとともに、広く国民の負託に応えたい。


