和の文化を伝える学校づくり
~和楽器部の活動を通して~
-名古屋市立津賀田中学校-
1 和楽器部の設立
本校学区には、平安時代にさかのぼる歴史がある。平安末期、平清盛との政争に敗れた藤原師長(ふじわらのもろなが)は、本校学区井戸田村へ配流となった。琵琶の名手であった師長は、その地で琵琶を奏で、小さな田舎の村に、都の香りのする妙なる調べが流れた。
このような歴史を語り継ぎ、随所に史跡をもつ学区に育つ本校生徒には、地域を愛し、地域に誇りをもって生きてほしい。地域をよく知り、ひいては、日本の伝統や文化を理解できる子どもたちに育ってほしいと、平成17年、三味線・長唄を中心とする「和楽器部」を創設した。創部に尽力したのは、和楽器の心得のあった当時の本校教員と、行政からの交流人事で本校に着任した当時の校長である。
それから10年間、文化庁の支援も受け、三味線・長唄・鼓・太鼓・篠笛の指導者を招き、質の高い指導を継続している。授業後の校舎に、三味線や鼓の音が響く学校は、全国でも珍しいだろう。和の楽器の音色は、どこかゆったりとしたところがあり、心を穏やかにするはたらきがある。本校生徒は、ごく自然に、日々、和の文化にふれることができている。
2 和楽器部の活動
授業後の練習風景
和楽器部は、年間多くの公演を行っている。4月には、学区のコミュニティーセンターにおいて、「お花見コンサート」と称し、演奏会を行っている。地域にお知らせをし、地域住民も招いて腕前を披露している。地域の高齢者にも大変好評である。
秋には、CBCこども音楽コンクールに参加している。ここ数年間は、県大会へ出場し、演奏の質だけでなく、中学生が和楽器に取り組む姿勢も評価され、「審査員特別賞」を受賞している。
校内の音楽会においては、全校生徒の前で、「官女」を演奏し、平家物語の壇ノ浦の悲劇を唄い、「勧進帳」では弁慶の雄姿を唄う。生徒は、毎日授業後に聞いている音色とは少し異なる、緊張感のある三味線の調べに、鼓や唄いが伴って、美しく響く音色を鑑賞することができる。
舞台公演の様子
全国でも珍しい部活動ということで、様々なイベントに呼ばれることも多い。26年度は、名古屋市が全市を挙げて取り組む「環境デーなごや」のオープニングセレモニーでの演奏を任され、多くの市民の前で披露した。
3 これからの取り組み
このような活動を継続する中、今年度から新たな取り組みを進めることになった。冒頭に紹介した、藤原師長について語る「群読」である。平安時代から語り継ぐ歴史があるとはいえ、住民の誰しもが知っているというわけではない。「妙音通(みょうおんどおり)」という地名が、師長の琵琶の「妙なる音」から名付けられたこと、「姫宮町」が、師長を慕う娘にちなんで付けられたことなど、生徒たち皆で語り継ぎ、地域の人々と共有していきたい。
「環境デーなごや」での発表
埋もれかけている物語を朗読に仕立て、琵琶の音とともに、群読する活動である。群読の指導には、音声表現の専門家がボランティアで指導に当たってくださっている。琵琶の演奏は、学区に伝わる琵琶奏法を伝承する団体が、協力してくださる。来年度以降も、様々な場面で発表していく計画である。
4 おわりに
本校の和文化理解への取り組みは、あくまでも部活動としての取り組みである。和楽器部だけでなく、茶華道部も、日々の練習の成果として、校舎のあちこちに生け花作品を飾ったり、年に数回お茶会を開いたりすることで、和の文化を伝えている。一部の生徒が毎日行う活動に、他の生徒がふれ、自然に和の文化のすばらしさを感じ取る本校の伝統を継承していきたい。
(文・写真 笠島 修)